2013年03月30日

映画「プラチナデータ」感想文



MOVIX清水での観賞です。

東京の片隅で子供が殺される事件があった。警視庁捜査一課の刑事である浅間玲司(豊川悦司)は、子供を狙った一連の連続殺人として捜査を始めようとしたところで彼の携帯が鳴った。その内容は警察庁の科学捜査機関が容疑者の割り出しに成功したと言うものだった。現場にあった髪の毛からDNAを採取し、科学機関のコンピュータのデータの中にそれとほぼ合致したものが見つかったのだ。これにて容疑者は逮捕される。このシステムの責任者はその機関の科学者である神楽龍平(二宮和也)だった。そしてそのシステムに追い風を受けるような法律が通ろうとしていた。国民のDNAデータを登録し、犯罪の検挙率の向上、捜査機関の短縮、犯罪の抑止を狙ったものだった。そんな中、一件の殺人事件がおきる。大学病院のVIPルームにいた兄妹が殺害されたのだ。殺されたのは蓼科耕作(和田聰宏)と蓼科早樹(水原希子)。しかも殺され方が少し前に起きた殺人事件に酷似していた。捜査一課は連続殺人として捜査を始めるが、浅間は違和感を感じていた。今回殺された二人はDNAの捜査システムの構築に深く関わっていた。過去の被害者がシステム反対派だったのに対し、今回はシステムを作った当事者が狙われたのだ。しかもこの犯人のDNAはシステムに未登録で発見することが出来なかったのだ。しかし殺された早樹の爪に、犯人のものであろう皮膚片があったのだ。これからDNAを解析した神楽は驚く。結果は神楽龍平本人のものだったのだ。捜査側にそのことを知られた神楽は警察に追われる立場となるが、浅間にはこの結果にも釈然としないものを覚えていた。

DNAデータを基に犯罪捜査が行われる近未来を舞台に、自らが携わるDNA解析捜査で連続殺人事件の容疑者となってしまった科学者の逃亡劇を描く東野圭吾さん原作の小説を映画化したものです。監督さんは「ハゲタカ」の大友啓史監督。主演の科学者役に「GANTZ」の二宮和也。警視庁捜査一課の刑事役に「必死剣 鳥刺し」の豊川悦司。システムを構築する上で中心的役割を担った医師役に「のぼうの城」の鈴木保奈美。主役の科学者の片腕の科学者役に「おかえり、はやぶさ」の杏。システム構築で大きな役割を担った数学の天才の女性役に「ヘルタースケルター」の水原希子。

さて科学的な犯罪捜査が行われている現在ですが、過去にはその技術の未熟さゆえの冤罪も起こっているDNA鑑定。それを発展させていって、将来起こりうるかもしれない「システム」を舞台にした作品です。若手の俳優さんたちも出演されていますが、やはりベテランの俳優さんたちの演技に目が行きます。豊川悦司さんの刑事は、科学捜査に対して刑事の勘と正義感と人情を感じさせる、古いタイプの観る側に共感を得られる役柄を見事に演じていると思います。また鈴木保奈美さんの医師も、正直冒頭では「医師」として「科学者」として、その比較的ぬるい個性がどうかとは思ったのですが、後半のその「立場」を考慮してみると、そのキャスティングが間違っていなかったのかなと感じます。そういった様々な「デジタル」と「アナログ」の対比を感じさせる作りになっていると思います。

それから正直そこは重要じゃないのかも知れないのですが、「謎解き」の部分があまりにもおろそかにされている気がします。デジタルな捜査に対し、アナログな捜査をする豊川悦司さん演じる刑事が、かなり靴底をすり減らした捜査をしているはずなのですが、そこはほとんど表現されることなく、突然捜査結果が出てきてしまう不自然な唐突さや、謎解きとしての作りの甘さがどうしても目立ってしまう感じがします。それからベテラン俳優さんたちの演技のことを申し上げましたが、逆に若い俳優さん達にはもう少し頑張って欲しいなと言った感じは持ちましたね。

正直もうちょっとハラハラ感がある作りをしてくれても良かったかなという感じはします。時間とお金のある方はご覧ください。


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2013年03月27日

映画「脳男」感想文



109シネマズグランベリーモールでの観賞です。

精神科医・鷲谷真梨子(松雪泰子)は犯罪被害者と加害者にコミュニケーションをとらせる新たな治療法を模索していた。しかし時期尚早の声もあり保留となっていた。失意の真梨子は雨のバス停でバスに乗り遅れる。バスの中から幼稚園児が真梨子を小馬鹿にする。イラっとした真梨子はタクシーに乗ろうとしたその時、バスは爆発し炎上した。バスの中から降りてくるやけどを負った園児を抱きかかえた真梨子は大声で救急車を呼んだ。そういった爆破事件が立て続けに起きていた。捜査に当たる刑事の茶屋(江口洋介)は熱苦しいまでの正義感で捜査に当たっていた。そして犯人の尻尾をつかんだ。犯人が使用していた器具が特殊なもので、売った先が記録されていたのだ。茶屋が乗り込んだ廃工場には一人の男がたたずんでいた。緊急逮捕したその男は鈴木一郎(生田斗真)と名乗った。しかしそれが偽名であるのは明らかだった。連続爆破事件の容疑者として拘留された「鈴木一郎」はその特異な言動や行動から精神鑑定にかけられる。そしてそれを担当したのが真梨子だった。精神を病んだ犯罪者と接する真梨子は、バス爆破で亡くなった園児に自分の弟の姿を重ねていた。彼女の弟は未成年者に殺されており、その犯人の精神鑑定を彼女自身がすることになったのだ。犯人は彼女を受け入れ、仮出所するまでに回復していたのだ。そんな彼女の前で鑑定を受ける「鈴木一郎」は過去にいたどんな患者とも違っていた。彼には感情が完全に欠落していたのだ。科学的に分析していくと、精神科医として非常に興味深い存在である「対象」だったのだ。そして真梨子の同僚の空身(甲本雅裕)が、ある文献を探し出してくる。それは幼い頃の「鈴木一郎」を記したものに間違えなかった。真梨子はその文献を書いた藍澤(石橋蓮司)という医師に会いに行く。

第46回江戸川乱歩賞を受賞した首藤瓜於の小説を映画化したものです。監督さんは「はやぶさ 遥かなる帰還」の瀧本智行監督。主演の悪を本能的に抹殺する男の役に「源氏物語 千年の謎」の生田斗真。事件に様々な方面から関わる精神科医役に「デトロイト・メタル・シティ」の松雪泰子。事件を追う刑事役に「GOEMON」の江口洋介。爆破事件を次々起こす犯人役に「ヒミズ」の二階堂ふみ。精神科医がカウンセリングした未成年犯罪者役に「ストロベリーナイト」の染谷将太。

さて個々の役者さんの力量が如実に出ている作品に感じます。主演の生田斗真さんですが、表情を全く出さずに瞳と数少ないセリフだけで主人公の感情を外に出せるのはかなり難しい演技になると思いましたが、かなり訴えかける演技をしてたと思います。生田斗真さんの映画をそんなにたくさん観ているわけではないのですが、この作品はかなり良い感じがします。また松雪泰子さんや江口洋介さんらベテランの俳優さんたちはクオリティの高い演技をしてくれたと思いますが、二階堂ふみさんは「この手」の役柄をかなり真剣に演じてくれたなと思います。若い女優さんはこういった役柄を敬遠しがちですからね。少し二階堂ふみさんの役を松雪泰子さんがやったらどうなるかなと言った興味はありますが…。

いや本当に役者さんはよくやってくれていると思うのですが、なんて言うのか最終的に残るものがやや少ない気がするんですよ。若年者の犯罪をテーマにしているため、表現にいろんな制限が入ってくるのは理解するのですが、ただ同じ素材をハリウッドや単館系の映画館をメインに製作するのでしたら、もっと踏み込んだものが出来るような気がするんですよ。それがテレビ局が製作する作品の限界を感じるんですよね。それから江口洋介さんの髪型!某刑事ドラマの松田優作さんをイメージさせる感じがあるのですが、ちゃんと江口洋介さんはそんなイメージがあります、別にあんな髪型をしなくても…と思います。またエンドロールの黒地に赤文字。すごく見づらいです。

劇中の松雪泰子さんの「私と○○したいですか?」って質問。んー、自分だったらえらく動揺するな(^_^;)時間とお金のある方はご覧ください。


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2013年03月18日

映画「ストロベリーナイト」感想文



藤枝シネ・プレーゴでの観賞です。

中野のアパートの一室で一人のチンピラが刺殺体で発見された。被害者の名前は小林充(金子ノブアキ)。警視庁捜査一課の姫川玲子(竹内結子)ら、姫川班のメンバーは捜査に当たる。しかし殺され方が酷似した事件が他にも2件おきていたのだ。そしていずれも被害者は同じ暴力団の構成メンバーだった。警視庁は関連のある案件と判断し、合同捜査本部を設けた。しかし姫川は他の事件と小林の事件に何となく違うものを感じていたのだ。そして偶然姫川はタレこみ電話を耳にする。それは小林を殺した犯人は柳井健斗(染谷将太)という青年だと言うものだった。姫川はそのことを入院中の直属の上司である今泉春男(高嶋政宏)に告げる。その名前に怪訝な顔をした今泉だったが、電話の件を誰にも言わないように姫川に釘を刺した。そして翌日、姫川は管理官の橋爪俊介(渡辺いっけい)から、柳井健斗の件に一切関わらないように命令される。それに納得のいかない姫川は、柳井健斗について調べはじめる。そして9年前に起こった事件にたどり着く。一方、構成員を殺された暴力団にはある抗争が起こりかかっていた。組織のトップである会長の龍崎神矢(石橋蓮司)は病に臥せっており、長くはない状況だった。暴力団内で跡目問題が起こりかかっていたのだ。そしてシノギの面でも対立が起こっており、幹部たちはピリピリとしていた。龍崎から目をかけられ、若いながらも頭角を現し幹部となっていた牧田勲(大沢たかお)は、古株の幹部らと対立しつつもトップに立つ野心を抱いていた。柳井健斗の自宅を割り出し張り込んでいた姫川だったが、一向に柳井健斗は帰宅しなかった。そこに一人の男が現れる。牧田勲だった。牧田に声をかけた姫川は柳井健斗との関係を聞き出そうとする。牧田は不動産会社の社員と称し、逆に姫川から情報を探ろうとした。

ノンキャリアから警視庁捜査一課の刑事にのし上がったヒロインを主人公にしたテレビドラマ「ストロベリーナイト」の映画版です。監督さんは「キサラギ」の 佐藤祐市監督。主演の女性主任刑事役に「ステキな金縛り」の竹内結子。主人公が率いる班を束ねる刑事役に「サヨナライツカ」の西島秀俊。捜査線上に浮かんできた悲劇的な過去を持った青年役に「悪の教典」の染谷将太。事件に関わる暴力団の幹部役に「ミッドナイト イーグル」の大沢たかお。

さて当初の2時間ドラマから興味を持って見ていたドラマ「ストロベリーナイト」を映画化したものですが、この作品のキモは個性的な刑事さんたちにあると思っています。ドラマでもレギュラーの俳優さんに加え、ノンキャリアから捜査一課長になった三浦友和さん演じる刑事さん、柴俊夫さんや今井雅之さん演じるマル暴の刑事さんが加わり、さらに厚みが増しているように思えます。また相変わらずのイラっとするまでに堅物で直感型の主人公の女刑事を演じる竹内結子さんと、対極にいる暴力団幹部の大沢たかおさんとの関係が、ラブストーリーではないまた違った人間関係にある男女に描かれていて観る側の興味を引きます。またドラマから微妙な人間関係を持った西島秀俊さん演じる刑事さんとの関係も切なさを持って観る事ができました。

ただドラマの頃から感じている「事件解決」の設定や展開には相変わらずの不満が残ります。基本的にこのドラマはそういったところが主ではないってことは重々承知しております。しかし刑事ものである以上、そのファクターはかなり重要なものを占めていると感じるんですよね。それが原作側にあるのか、製作側にあるのかは、原作を読んでいない自分にはわからない部分ではあるんですがね。それから主人公と違った観点から捜査する遠藤憲一さんの演ずる刑事や、事件解決のための必要悪を駆使する武田鉄矢さんが演じる刑事がドラマに比べて毒がかなり薄まっていることも不満です。それから刑事ドラマが映画化される際に、「警察内の悪」と言ったテーマに着地してしまうのが多いのはなぜなんでしょう?一般社会的には由々しき問題だと思うのですが、違う作り方はできないのでしょうか?

正直、一番最初の2時間ドラマを越える出来にはなかった気がします。時間とお金のある方はご覧ください。


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2013年03月16日

映画「ゼロ・ダーク・サーティ」感想文



TOHOシネマズららぽーと磐田での観賞です。

9・11の同時多発テロであらゆる分野で大きくダメージを受けたアメリカ。それを実行したアルカイダへの、特にその頭目であるオサマ・ビンラディンへの報復は至上命令になっていた。ビンラディンを生んだサウジアラビアの支援組織のメンバーにCIAは拷問を加え、ビンラディンや主要メンバーにたどり着く情報を得ようと躍起になっていた。そこにまだ経験が浅いが、人並み外れた情報収集力と分析力を誇るアナリストのマヤ(ジェシカ・チャスティン)が加わることになった。マヤは拷問の中で精神的に弱くなっていたメンバーから、ビンラディンに極めて近い連絡員の存在を知る。マヤはその捜査に全力を挙げるようになる。しかしアルカイダのテロは様々なところで起こっていった。中でもロンドンで起こったテロに世界は驚愕していた。そしてその危険はマヤの身近にも及ぶようになる。パキスタンのイスラマバードでマヤと共にCIA女性アナリストとして働くジェシカ(ジェニファー・イーリー)は、同性ということもあってマヤがもっとも心を許せた仲間だった。その二人で会食していたホテルが自爆テロで襲われた。そんな中、ジェシカはアルカイダの中で医師として働く一人の男の情報を得る。彼はパキスタンの中で行われた会議の様子を動画としてヨルダンの機関に報告してきたのだった。内通者とコンタクトをとることに成功したジェシカは、アフガニスタン内の米軍キャンプでその医師と会うことになった。しかしそれは罠で、自爆テロのあおりでジェシカは命を失うことになる。ジェシカの死にショックを受けたマヤに追い討ちをかける情報が入る。彼女が追いかけていた連絡員がすでに死亡していたと言うものだった。しかし数年後、その連絡員の死が別人だったのではないかと言う情報がマヤの耳に届く。

全米同時多発テロの首謀者にしてテロ組織アルカイダの指導者、ビンラディンの殺害計画が題材のサスペンスです。監督さんは「ハート・ロッカー」のキャスリン・ビグロー監督。主演の女性CIAアナリスト役に「ヘルプ ~心がつなぐストーリー~」のジェシカ・チャスティン。

さて「ハート・ロッカー」でオスカーを取った女流監督が、再びきな臭い話題を扱った作品となります。9・11以降も各地でアルカイダによるテロが起こり続けていくわけですが、そんな中突然に告げられたビンラディン殺害作戦。基本的にアメリカ側のシチュエーションで捉えられている作品ですので、「アメリカ万歳」的な色が濃くなっています。拷問で得られたもの、取引により得られたもの、アメリカに近い国の情報機関から得られたもの。そんな確実かどうかわからない情報の中から、おそらく真実に近い情報ではないかを見極め、不確定な中作戦に持ち込む薄氷を踏むような緊張感があります。そしてクライマックスの作戦のシーンでは、攻撃よりも撤退の緊張感が観る側に緊張感を訴えてきます。2時間半を越える長めの作品でありながら、個人的にはかなり興味深く観ることができました。

しかし何ですなぁ…。ネタバレを恐れずに言えば、拷問のシーンや、最後のクライマックスに子供のシーンが、ちょっとどうなのかな?そこは薄めてでも、とちょっと思ってしまいます。観る側の視点はいろいろですので、それがこの映画の評価を高くもしたり低くもするんだろうなといった感じがします。キャスリン・ビグロー監督はこういった映画を撮り続けるのかなぁ。違ったテーマの作品も観たい気がします。

オスカーを取った「ハート・ロッカー」よりはこちらのほうが良いかなと感じます、時間とお金のある方は是非ご覧ください。


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2013年03月08日

映画「遺体 明日への十日間」感想文



109シネマズグランベリーモールでの観賞です。

岩手県釜石市。2011年3月11日。その日も釜石では普段どおりの生活が流れていた。皆で集まって卓球をする高齢者たち。娘を連れて商店街で買い物をする母娘。患者たちにいつもどおり接する医者や歯医者。市役所の職員はそれぞれの仕事をしていた。しかしその時間はやってきた。大きな揺れの後、卓球場の片づけをしていた民生委員の相葉常夫(西田敏行)は、海に近い地区が津波に襲われたことを聞かされる。相葉は廃校となった学校に急遽設置された遺体安置所に赴いた。そこには淡々と運ばれてくる泥だらけの遺体があった。無造作に並べられ、死後硬直で動かなくなった手足は骨を折られて形を整えさせられていた。それを呆然と見ている市の職員たち。定年まで葬儀社の社員として働いていた相葉は、その遺体の扱いに悲しみを覚えた。相葉は旧知の市長である山口武司(佐野史郎)に頼み、ボランティアとして遺体安置所に常駐するようになる。安置所の市の責任者である平賀大輔(筒井道隆)は運ばれてくる遺体を前に、ただ立ち尽くすのみであった。相葉はそんな平賀や平賀の部下である照井優子(志田未来)や及川裕太(勝地涼)を励まし、遺体を「人間」として扱い、遺族のケアに勤めた。遺体安置所には遺体を検分する医師の下泉道夫(佐藤浩市)や、歯型を記録するための歯科医師の正木明(柳葉敏郎)やその助手の大下孝江(酒井若菜)の姿もあった。次々と運ばれてくる遺体の中には、彼らの友や患者の姿もあった。増えていく遺体にやりきれない気持ちや、被災地でできることの現実が安置所を覆っていく。

岩手県釜石市の遺体安置所を題材としたジャーナリストの石井光太氏のルポルタージュ「遺体 -震災、津波の果てに-」を基に、メディアが伝え切れない被災地の真実を描き出したヒューマン・ドラマです。監督さんは「誰も守ってくれない」の君塚良一監督。主演の遺体安置所でボランティアをする元葬儀会社社員役に「ステキな金縛り」の西田敏行。遺体安置所で検分する医師役に「ザ・マジックアワー」の佐藤浩市。歯型の記録をとる歯科医師役に「聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実-」の柳葉敏郎。安置所の責任者である市職員役に「歓喜の歌」の筒井道隆。

正直、遺体が運ばれてきたシーンあたりからすっと涙が滲んできた。理由は二つあった。まずは運ばれてくる遺体を西田敏行さん演ずるボランティアが「人間」として扱い、話しかけ、優しく接する姿。これは西田さんならではの人間性が感じさせられます。そして子供の遺体が運ばれてきて、冷静さを装ってきた志田未来さん演じる市職員がその感情をあらわにするシーン。柳葉敏郎さん演じる歯科医師の親友が遺体となって運ばれたときのシーン。酒井若菜さん演ずる歯科助手が世話になった会社社長が運ばれてくるシーン。國村隼さん演ずる住職が読経に詰まるシーン。その全てが迫真の演技なのか、その役者さんの人間性が表に出たものなのかが定かではない、何ともいえない優しさや悲しみがスクリーンから突き刺さってくるんです。そしてもう一つは悔し涙であります。震災後の2011年5月。知り合いの会社からボランティアを出していて、その社長さんの運転手として大槌町を訪れました。その途中に釜石を通りました。そこで津波の傷跡を初めて見たのです。ある境から街が一変していました。意味がわからなかった。大槌に入ってその意味のわからなさはピークに達していました。そんな気持ちが、自分の中から大幅に薄れていたのです。それが悔しかった。あの時のあの気持ちはどこに行ったのか?それは自分だけじゃないかもしれない。この映画の内容は結構キツいものかもしれない。しかし被災地の方々、そして早めに被災地に入った人々、彼らは映画ではなく現実としてそれを見ているのだ。前出のボランティアさんが地元の人から聞いた話もそんな話だった。報道ではそれらの話や映像は流れることは無い。被災地から離れた自分らは想像の中で「こうだったんじゃないか?」レベルでしかない。作り手側はこれでもかなり抑えた表現なのかもしれない。しかし観る側にあの時の気持ちをもう一度思い起こすように訴えてきているような気がします。間違いなくあの日の日本は「大怪我」をしました。それから二年。痛みは薄れ、怪我の箇所は生乾きになったのかもしれない。しかしまだ生乾きなのだ。大怪我は完治していない。しかし二年が経って、震災直後と現在では自分たちがやることは明らかに変わってきている。改めて今自分が何を行動すべきなのか?震災映画は時期尚早という評論もあるが、すでに自分たちは忘れかけているのかもしれない。なら時期尚早じゃないんじゃないか。原点に立ち返らせる。そんな一本だと思います。映画だからこそ。

今回はいつもと違った形式で感想文をアップしました。映画としての出来は良いものではないかもしれない。観たくない人は観なくて良い。でも二年目のその日が近づいた今、あの日のあの気持ちを思い起こし、今のこの時期に出来ることを改めて考える作品だと思います。


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2013年03月06日

映画「砂漠でサーモン・フィッシング」感想文



MOVIX清水での観賞です。

水産学者のジョーンズ博士(ユアン・マクレガー)は堅物で変わり者。妻のメアリー(レイチェル・スターリング)ともなんとなく夫婦生活を送っていた。そんな博士のもとにある突拍子も無い依頼が届くのだった。それはアラブの砂漠の国のイエメンで鮭を放流し、それを釣りたいというものだった。依頼人はイエメンのシャイフ・ムハンマド(アムール・ワケド)と言う大富豪であった。釣り好きのジョーンズ博士であったが、大富豪の金にものを言わせた道楽には付き合っていられないと、シャイフの英国での資産管理会社社員のハリエット・チェトウォド=タルボット(エミリー・ブラント)に冷たく断りの連絡をした。その頃イギリスはアフガニスタンでの紛争に巻き込まれ、英国軍を派遣するような事態に陥っていた。ハリエットの彼氏である軍人のロバート(トム・マイソン)もアフガンへと赴任していった。英国政府は国民の目をそらすため、中東でのいいニュースを探していたが、そこでシャイフの鮭の放流プロジェクトが目にとまった。鮭の放流プロジェクトに英国政府も資金援助し、政府からの圧力もあってジョーンズ博士は嫌々プロジェクトを引き受けることとなった。ハリエットと共にスコットランドのシャイフの別荘である城を訪問したジョーンズ博士は、大夢想家であるシャイフの一見無謀だがその裏にある人間の大きさに惹かれていく。イエメン行きを決意した博士に小さなトラブルが舞い込む。それは妻のメアリーがジュネーブに会社の責任者として常駐することが決まったのだ。空気のようにそばにいるものだと思っていた博士はショックを受ける。そしてハリエットにもショックな出来事が起こる。恋人のロバートがアフガニスタンで戦闘中に行方不明になったのだ。いろんな想いを抱えた二人は、鮭の生育には適さないと思われる国イエメンへと向かう。

アラブの大富豪からの「イエメンでサケを釣りたい」という無理難題に応えるために奔走する人たちをコミカルに描いたドラマです。監督さんは「HACHI 約束の犬」のラッセ・ハルストレム監督。主演の水産学者役に「スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐」のユアン・マクレガー。イエメンの大富豪の資産管理会社の社員役に「LOOPER/ルーパー」のエミリー・ブラント。イエメンの大富豪役に「シリアナ」のアムール・ワケド。

さてタイトル通りに突拍子も無いプロジェクトが進行するわけですが、基本そのプロジェクトが達成されるまでの「プロジェクトX」的なプロセスを取り上げたものではなく、人間関係を重視したドラマに仕上げられています。それは男女間の関係だったり、人に出会って変わっていく自分だったりするわけです。個人的にはプロジェクトの中心にいるイエメンの大富豪の人間性に少し惹かれます。ちょっと落語的な突拍子だけど奥が深いキャラクターが良いなと思いました。またそれだけではなく、政治の風刺なんかも結構強烈なスパイスとなっています。しかしユアン・マクレガーはいろんな役をこなす俳優さんですな。スター・ウォーズのエピソードシリーズのオビワン役のイメージが強いと思いますが、「フィリップ、きみを愛してる」なんかの役柄を見ても幅が広いなと感じますね。

ただ落としどころが道義的にどうなのかなって気がします。ハッピーエンドと言ったらハッピーエンドなんだけど、どうも引っかかりがあって、素直に「あぁ良かったな」って思えないんですよね。正直もう少し違った落としどころがあった気がします。また多少は「プロジェクトX」的な科学的に裏づけされたものがあっても良かったかなと思うんですよね。中東の国で鮭が生きていけるという根拠があまりに表面的な気がします。

そんな引っかかりは残りますが、基本的には面白い映画だったと思います。時間とお金のある方は是非ご覧ください。


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2013年03月05日

映画「カラカラ」感想文



MOVIX清水での観賞です。

沖縄で行われていた気功のセミナーに参加していたカナダ人のピエール(ガブリエル・アルカン)。元大学教授で60歳を過ぎた彼は、雑誌などに記事を書いたりして生活を送っていた。離婚もして気ままな生活に見えた。気功のセミナーを終えたピエールは、10日間の沖縄観光に向かった。美術館に向かおうとしたピエールは道に迷っていた。そこに二人の女性が声をかけてきた。そのうちの一人、沖縄に住む主婦の純子(工藤夕貴)はアメリカに留学していたこともあり英語が話すことができた。彼女らはピエールを美術館に連れて行き、共に食事などもした。翌朝米軍機の爆音が響く中、公園で気功の練習をするピエールの前に再び純子が現れた。家庭でトラブルが起こっていた彼女は、気晴らしにピエールの観光の手伝いをすることにしたのだった。一日ピエールと過ごした純子は、彼のその人柄に惹かれていった。その夜、翌日から芭蕉布の工房を見学することを決め、離島に向かうとなったピエールのホテルの部屋の電話が鳴る。電話の先には泣きじゃくった純子の声があった。彼は夫からの暴力を受け、家から逃げてきたのだった。そしてピエールの旅に一緒についていくと言うのだ。静かな旅を送りたかったピエールだが、彼女を見捨てることができなかった。ギクシャクした二人の旅が始まる。

カナダ人男性と沖縄の主婦を主人公に、沖縄の島を旅することで人生を見つめ直す二人の姿をつづるロード・ムービー。監督さんは「リバイバル・ブルース」のクロード・ガニオン監督。主演のカナダ人元大学教授役に「アグネス」のガブリエル・アルカン。夫のDVに悩む主婦役に「座頭市 THE LAST」の工藤夕貴。

さて比較的難のある環境におかれた男女が、沖縄の独特な風土や文化の中を旅する話です。最も難があるのはキャラクターの二人だけではなく、沖縄得に本島がおかれた状況も作品を通して訴えられてきています。盛んに飛ぶ米軍機の音、占領下にあった名残りのアメリカナイズされた街並み、それに対する離島の風景。そんな沖縄の姿が映像を通して如実に映し出されています。またキャラクターの二人も良い感じです。特に工藤夕貴さんは良いなと思います。ただ濡れ場はやりすぎ感がありますけどね。

ただ全体的に淡々と進んで行き、飽きてしまうお客さんもいるでしょうね。クロード・ガニオン監督はカナダのケベックの出身ですから、フランス映画のような作りが影響しているのかもしれませんね。それから確かに沖縄の、特に離島の美しさや、そこに住む人々の価値観や人間性がよく表現されているとは思うのですが、沖縄の良さがものすごく出ているのかと言えば、そうでもないような気がするんですよねそこが残念です。

1月に石垣島に行ってきました。那覇のトランジットで国際通りにも行きました。調べればもっと良いところもあるんだな。今度はもっと時間をとって観光したいと思いました。時間とお金のある方はご覧ください。


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2013年03月04日

映画「つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語」感想文



TOHOシネマズららぽーと磐田での観賞です。

松生春二(阿部寛)は艶という女と出会い、妻子を捨てて伊豆大島で二人の暮らしを始めていた。しかし性に対して自由奔放な艶は、春二と出会う前も春二と生活を始めた後も男を追い求め続けた。しかしそんな艶も病にかかり、ついには意識不明の危篤状態となった。看病を続ける春二だったが、こんなにも愛しているにもかかわらず、ついには言葉も話せなくなった艶に対してやりどころの無い気持ちを持っていた。そこで春二は一つの行動に出る。それは艶と何らかの関係があった男たちに艶の危篤を知らせることだった。12歳で無理に艶の処女を奪った従兄の石田行彦(羽場裕一)、艶の元夫だった太田(岸谷五朗)、病に倒れる寸前まで付き合っていた橋川、そして艶がストーカー的に付きまとっていた島でスナックを営む茅原優(永山絢斗)らにそれを知らせた。しかし彼らの反応は様々だったが、長く艶と会っていない男たちには何らかの心の動きがあった。だが心が動いたのは男たちだけではなかった。男を取り巻く女たちも、男たちとは違った形で気持ちが動いていった。行彦の妻の環希(小泉今日子)は艶の危篤の知らせを受け、夫への不信感が増していった。行彦は作家として大きな賞を受賞することとなったが、編集者時代に付き合っていた作家の伝馬愛子(荻野目慶子)と相変わらずの不倫関係にあった。授賞式の席で二人の女は顔をあわせることとなる。

直木賞作家井上荒野の小説を映画化した恋愛群像劇です。監督さんは「世界の中心で、愛をさけぶ」の行定勲監督。主役の奔放な妻に振り回される夫役に「カラスの親指」の阿部寛。主人公の妻をかつて犯した従兄の妻役に「毎日かあさん」の小泉今日子。主人公の妻の元夫と関係を持つ不動産会社の女性社員役に「ライアーゲーム ‐再生‐」の野波麻帆。病に倒れるまで主人公の妻と付き合った男の妻役に「うさぎドロップ」の風吹ジュン。主人公の妻がストーカーしていた男の恋人役に「SP 革命篇」の真木よう子。主人公の元妻役に「たみおのしあわせ」の大竹しのぶ。娘役に「マイ・バック・ページ」の忽那汐里。

さて非常に面白い設定をしているなと感じました。まぁ例によって原作を読んではいないのですが、素材の良さを感じました。話の中心にいる「艶」という女は基本的に存在を感じさせない設定で、物語の進行はその中心にいる女と付き合った男に関わる「今」の女の視点から描かれています。キャスト紹介の部分で「主人公」と表現した阿部寛さん扮する男も「付き合った男」の一人でしかないことを感じさせます。それから異性に対する性を様々なパターンをあげて紹介しているのも面白く思いました。また伊豆大島の風景を同じようなカメラアングルでいろんなパターンを撮影しているところも面白いなと思いました。

オムニバス調に話が進行していますが、一つ一つのエピソードにもうちょっと「つながり」感があれば良いなと思いました。なんか不完全燃焼感が残るんですよね。もう少し時間をかけて話を作っていけば良いのでしょうが、ただでさえ長めの作品ですのでこれ以上長くすると疲れる感じにはなるので、まぁいたしかたないかなと思いますが。そのせいだと思うのですが、話に出てくる男たちの印象が薄いだけでなく、女たちの印象も薄くなってしまう感じなんですよ。素材の良さは認めるだけにやや残念かなと思いました。

エンドロールのクレージーケンバンドの歌がやけに印象的でした。時間とお金のある方はご覧ください。


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Posted by 清水落語王国Web管理人 at 00:47Comments(0)映画