2013年03月08日

映画「遺体 明日への十日間」感想文

映画「遺体 明日への十日間」感想文

109シネマズグランベリーモールでの観賞です。

岩手県釜石市。2011年3月11日。その日も釜石では普段どおりの生活が流れていた。皆で集まって卓球をする高齢者たち。娘を連れて商店街で買い物をする母娘。患者たちにいつもどおり接する医者や歯医者。市役所の職員はそれぞれの仕事をしていた。しかしその時間はやってきた。大きな揺れの後、卓球場の片づけをしていた民生委員の相葉常夫(西田敏行)は、海に近い地区が津波に襲われたことを聞かされる。相葉は廃校となった学校に急遽設置された遺体安置所に赴いた。そこには淡々と運ばれてくる泥だらけの遺体があった。無造作に並べられ、死後硬直で動かなくなった手足は骨を折られて形を整えさせられていた。それを呆然と見ている市の職員たち。定年まで葬儀社の社員として働いていた相葉は、その遺体の扱いに悲しみを覚えた。相葉は旧知の市長である山口武司(佐野史郎)に頼み、ボランティアとして遺体安置所に常駐するようになる。安置所の市の責任者である平賀大輔(筒井道隆)は運ばれてくる遺体を前に、ただ立ち尽くすのみであった。相葉はそんな平賀や平賀の部下である照井優子(志田未来)や及川裕太(勝地涼)を励まし、遺体を「人間」として扱い、遺族のケアに勤めた。遺体安置所には遺体を検分する医師の下泉道夫(佐藤浩市)や、歯型を記録するための歯科医師の正木明(柳葉敏郎)やその助手の大下孝江(酒井若菜)の姿もあった。次々と運ばれてくる遺体の中には、彼らの友や患者の姿もあった。増えていく遺体にやりきれない気持ちや、被災地でできることの現実が安置所を覆っていく。

岩手県釜石市の遺体安置所を題材としたジャーナリストの石井光太氏のルポルタージュ「遺体 -震災、津波の果てに-」を基に、メディアが伝え切れない被災地の真実を描き出したヒューマン・ドラマです。監督さんは「誰も守ってくれない」の君塚良一監督。主演の遺体安置所でボランティアをする元葬儀会社社員役に「ステキな金縛り」の西田敏行。遺体安置所で検分する医師役に「ザ・マジックアワー」の佐藤浩市。歯型の記録をとる歯科医師役に「聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実-」の柳葉敏郎。安置所の責任者である市職員役に「歓喜の歌」の筒井道隆。

正直、遺体が運ばれてきたシーンあたりからすっと涙が滲んできた。理由は二つあった。まずは運ばれてくる遺体を西田敏行さん演ずるボランティアが「人間」として扱い、話しかけ、優しく接する姿。これは西田さんならではの人間性が感じさせられます。そして子供の遺体が運ばれてきて、冷静さを装ってきた志田未来さん演じる市職員がその感情をあらわにするシーン。柳葉敏郎さん演じる歯科医師の親友が遺体となって運ばれたときのシーン。酒井若菜さん演ずる歯科助手が世話になった会社社長が運ばれてくるシーン。國村隼さん演ずる住職が読経に詰まるシーン。その全てが迫真の演技なのか、その役者さんの人間性が表に出たものなのかが定かではない、何ともいえない優しさや悲しみがスクリーンから突き刺さってくるんです。そしてもう一つは悔し涙であります。震災後の2011年5月。知り合いの会社からボランティアを出していて、その社長さんの運転手として大槌町を訪れました。その途中に釜石を通りました。そこで津波の傷跡を初めて見たのです。ある境から街が一変していました。意味がわからなかった。大槌に入ってその意味のわからなさはピークに達していました。そんな気持ちが、自分の中から大幅に薄れていたのです。それが悔しかった。あの時のあの気持ちはどこに行ったのか?それは自分だけじゃないかもしれない。この映画の内容は結構キツいものかもしれない。しかし被災地の方々、そして早めに被災地に入った人々、彼らは映画ではなく現実としてそれを見ているのだ。前出のボランティアさんが地元の人から聞いた話もそんな話だった。報道ではそれらの話や映像は流れることは無い。被災地から離れた自分らは想像の中で「こうだったんじゃないか?」レベルでしかない。作り手側はこれでもかなり抑えた表現なのかもしれない。しかし観る側にあの時の気持ちをもう一度思い起こすように訴えてきているような気がします。間違いなくあの日の日本は「大怪我」をしました。それから二年。痛みは薄れ、怪我の箇所は生乾きになったのかもしれない。しかしまだ生乾きなのだ。大怪我は完治していない。しかし二年が経って、震災直後と現在では自分たちがやることは明らかに変わってきている。改めて今自分が何を行動すべきなのか?震災映画は時期尚早という評論もあるが、すでに自分たちは忘れかけているのかもしれない。なら時期尚早じゃないんじゃないか。原点に立ち返らせる。そんな一本だと思います。映画だからこそ。

今回はいつもと違った形式で感想文をアップしました。映画としての出来は良いものではないかもしれない。観たくない人は観なくて良い。でも二年目のその日が近づいた今、あの日のあの気持ちを思い起こし、今のこの時期に出来ることを改めて考える作品だと思います。


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Posted by 清水落語王国Web管理人 at 00:30│Comments(0)映画
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